第1首
我が夫(つま)にアリストテレスの論法が
当てはまる日を考えもせず
すべての人間は死すべきものである
ソクラテスは人間である
ゆえにソクラテスは死すべきものである
−アリストテレス三段論法−
その日が来ることは知っていた
でも
その日について思い巡らすことはなかった
そして
その日は突然やって来た
海を愛した夫が
この世を去って
1年が経過した
2018年の7月
毎年受診していた
市の検診結果が届く
例年と違い
緊急の電話連絡と共に
がんセンターでの精密検査
結果は
進行性の稀少がん
小細胞型神経内分泌がん
常々
「人と同じことはしたくない」
と、言っていた人だったが
治療法の確立していない
10万人に1人という
そんな「がん」に
罹らなくてもと
恨めしく思った
治療法の確立している「がん」でも
良かったでしょう...
「肺がんの治療法が適応する」
とのことで治療を開始
しかし
余命は10か月
その間の生き方は
夫の精神力の強さを表していた
残される私の
余生の安定に手を尽くし
自分らしくこの世を去るための
ホスピスを選び
お世話になった方々への
感謝の手紙を
「自分が息を引き取ったら投函して欲しい」
と私に託した
人生の幕引きにまで
自分の信念を貫いた人
入院してからの進行は速く
あっという間に旅立ってしまった
私への遺言は
「残りの人生、遊び倒してくれ」
夫の友人から頂いた手紙の一節
(5歳の息子さんを亡くされた方)
人生、「悪いこと」ばかりではありません。
「いいこと」がたくさん待っています。
生きる希望が湧いてきます。
必ず、そんな日がやってきます。
1年経った今
私は前向きに生きている
必ず訪れる「その日」から目をそらさずに
残された人生が
どのくらいあるか分からない
遊び倒さなくてはならない
躊躇している時間が無いことは
夫が教えてくれた
悲しみを癒してきた日々を
ひとひらずつ
綴りたい
お付き合いいただければ幸甚
では、また。
御機嫌よう。
2020.6.投稿