P127そうなんだ。母さんもこの街に、この暮らしに根を張って生きているんだ。根っこは少しずつ、長く太くなっているんだ。そうか。そうなんだ。誰かに出逢って、なにかと出逢って変わっていくのは十代だけの特権じゃないんだ。夫と娘を失った母さんの傷が癒えてしまうことは、ない。引き攣れとなって残り、一生疼き続ける。でも、ときには忘れられるようになった。忘れて、笑えるようになった。
第68首
柑橘の風に誘われしまなみへ
我が心根も四方(よも)伸びんとす
2020年12月
この街に種として舞い降りた
小さい円の中を手探りで歩く
新しい出逢いで
根が生える
FP2級と簿記2級
初めて訪れる地での受験
手に入れた合格の2文字
出逢いは人とだけではない
芽が出る
近くのカフェで休日限定モーニング
買い物途中に見かけたボクシングジムへ入会
根は太くなり
ジムで年上のご婦人と懇意になる
凄くパワフルで向上心に溢れている
コーチのミット目がけ
ストレートもボディも容赦なく打ち込んでいる
ラインで連絡を取りあったり、食事に誘われたりするようになった
吸収することがたくさんある
60代だって
何かと出逢って
誰かと出逢って
変わって行ける
未来という言葉を
使って生きていける
小説の行間には
希望が包み込まれていた
では、また。
御機嫌よう