第94首
煩ひて眠れぬ日々の重い闇
昔となれば彩となり
生あるものが
果てていく姿を見るのが辛く
ここ数年
生花を部屋に飾ることを避けていた
転居先で親しくなった彼女が
良いお花屋さんを薦めてくれたとき
ついそのことを漏らしてしまう・・・
「病んでるね」
と彼女がぽつり
弥生
生あるものが
根を伸ばし
地上へ芽を送り出す季節
蕾を膨らませる時が来た
春の景色に誘われたのか
花を飾ってみよう
そんな心情が芽生え
凛とした赤いガーベラを一輪
部屋に飾る
良い・・・
そのことを
彼女に知らせることができた日の午後
ラインの着信音が鳴る
「あなたのマンションの玄関にいるから降りてきて」
エントランスに行くと
彼女の手には花束が
「あなたにも春が来たね」
とプレゼントされた
芽を出すことができた私は
花のある部屋で
一人で生きているのではないことを
涙と共に心に刻んでいる
では、また
御機嫌よう