第34首
幼子の頬の柔(やわ)さに触れし時
金木犀の香(か)は立ちのぼり
とタマルは言う。
「もしまだ読んでいなければ、
読み通す良い機会かもしれない」
「あなたは読んだ?」
「いや。俺は刑務所にも入っていないし、どこかに長く身を隠すようなこともなかった。
そんな機会でもないと『失われた時を求めて』を
読み通すことはむずかしいと人は言う」
(「1Q84 BOOK3 第2章 ひとりぼっちではあるけれど孤独ではない」)
身を隠すように暮らしていた
「私の2年間」は
「失われた時を求めて」を
読み始めるのに
ふさわしい時間だったのだろう
青豆のように
1日20ページほど
ゆっくりと
文章に身を委ね
自分の失われた時を
探りながら
思索して時を過ごす
金木犀の香によって
呼び覚まされた
幼子の母なりし頃の記憶・・・
沈丁花と雪解けの匂いの
幼い頃の思い出・・・
プワゾンの香りで覚醒する
30代の痛み・・・
焚き火の匂いの
物悲しさ・・・
香りと記憶は切り離せない
時間と空間を飛び越えて
香りは私をどこへ連れて行くのか
どこへでも
どこまでも
連れて・・・・・